「ベン・ハー」という記録的な名画がある。
数々の記録を打ち立てて、今も破られていない記録を数多く持つ。
もう半世紀も前の作品にも関わらずだ。
1950年代にして、58億円もの予算が組まれて、古代ローマの街をそのまま再現している。
この作品は中学生の頃に従兄弟に観ておいた方が良いと言われて、戦車のシーンにとても驚いた。
古代ローマの街を再現するというのはとてもすごい作業だ。
実際に石を積んでコロシアムを創ったのだろうか・・・。
或いは、やはりパネルや化粧などで、うまく石に見せているのだろうか?
今は、様々な樹脂や塗料が出ているから、様々な方法があるけれど。
当時に会った技術だと、本当に街を創ったのかもしれない。
今回の「セブンガールズ」の映画化に当たって、予算的に一番ネックになるのは美術だ。
終戦直後の有楽町界隈のバラック群。
そのセットをいかにコストと相談しながら製作できるのかどうかだ。
もちろん、ベン・ハーのように街まで再現できれば言う事はないけれど、製作に何年かかるかという話だ。
一番、当時の雰囲気をすでに持っている場所で、製作していくしかない。
美術製作でもっとも費用が掛かるのはやはり、人件費と材料費になる。
というよりも、美術費のほぼ全てと言っていい。
デザイン費用や、他にももちろん含んでいるのだけれど、圧倒的にかかるのはこの部分だ。
ここをいかに削減出来て、ここでいかに勝負できるのかが美術の勝負になる。
まだ演劇学校の生徒だった頃。
先輩がミュージカル「CATS」を演じることになって、その舞台監督さんの手伝いをしたのを覚えている。
ある日、舞台監督に呼ばれて、トラックに載せられた。
ついた場所は、埼玉県の某河原だった。
そこは、産業廃棄物の不法投棄で有名な場所でトラックで降りていくと、ボロボロの車や古タイヤ、ドラム缶。
ありとあらゆるゴミが不法に投棄されていた。
時間は深夜。
こんな所にトラックで乗り入れたら、不法投棄をしていると思われて捕まってしまう。
何をする気なんだろうと思っていたら。
舞台監督は次々にそこにあるゴミを選んで、それをトラックに積むように指示を出す。
野良猫が集まるような場所のセットを組むのに、廃棄物を利用したのだ。
もちろん、舞台終了後はちゃんと廃棄したけれど。
捨てられているものを拾うのだから罪ではないし、むしろリサイクルになる。
それに、何よりも、実際に廃棄されたものなのだから、余計な化粧をするよりも、ずっとリアルだった。
少し真面目に考えてみると、もしあの時警察が来ていたらと想像して、冷や汗をかくけれど。
そうなってもきっと、ちゃんと説明できたと思う。
さて、終戦直後のバラックとはなんであるか。
それを考えれば答えは簡単なのだ。
焼野原になった東京で、だからと言って、屋根のない家の内では雨露もしのげない。
すぐにでも居住区を建てなくてはいけない。
とは言え、まともに体が動く男たちは、学生すら戦地に取られている。
結局、戦地に行けないような少年や、老人、数少ない男たちで、とりあえず家を建てることになる。
焼け残った柱や、焼け残っているトタン。板切れ。
それをあちこちからリヤカーに乗せて運び込んで、バラックを建てていく。
だから、そもそも、バラック小屋とは、廃材で建てられたような建築なのだ。
億というような制作費用を持った映画ではない。
つまり、バラック街の美術のクオリティを上げるには、あらゆるアイデアが必要だという事だ。
その為に、必要なことを整理する。
・廃材を集める
・それを補完できる場所を確保する
・なるべく通える場所を借りる
・自分たちで建て込めるセットは建て込む
・可能なら、事前に少しずつ準備が出来るようにする
本番前は最後の化粧と室内のセットの作成だけで済むような。
そんな状況まで追い込むにはどうしたらいいのか。
ここに、美術のクオリティがかかっていると思っている。
これは、確かに大変な事だけれど。
アイデアがうまくはまれば、信じられないような・・・低予算でここまで!?というセットを組める。
でも、結構、本気でそれが出来ると思っている。
もう、そのために動いている。
一つ、大きな廃材をいただけるチャンスが迫っている。
現在、その保管場所を必死で探している。
一つの大きな壁だけど。
なんとか、探さないといけない。
ふんばれ!ふんばれ!!