3月22日。
クラウドファンディング終了日から一か月が経過した。
もどかしくなるほどまだ映画製作企画は助走段階だ。
当たり前なのだけれど。
一歩一歩。
助走段階でも進んでいる。
いつか、助走が駆け足になって、いつか駆け足が全速前進になる。
昨日もロケ候補地のその1に向かう。
その裏にある集落的な場所もお借り出来たらなと思っているのだけれど、地主さんとまともに話せていない。
ご高齢なのに農業をやってらっしゃって、いつも畑に出ているから中々声をかけられない。
声をかけた時も、田舎の人で、基本的によそ者や面倒は持ち込まないでほしいという感じだ。
頑固なわけじゃなくて、保守的な感じ。
とても、素敵なおじいちゃんなのだけど・・・・。
だから、まめに顔を見せて、少しずつお願いできればなぁと思っている。
稽古後に、やっぱり、俺みたいなむさくるしいおっさんが一人で尋ねてお願いしてもダメなのかなぁと話した。
広田さんとかに一緒についてきてもらって、話してもらった方が良いのかもなぁなんて思ったのだ。
広田さんは、うちの親父なんかもそうだったけど、実にご高齢の方と話をするのが上手だ。
そしたら、たまたま時間が空いてるから、行こうかなぁと堀川が言い出す。
まぁ、遠いし、行っても会えないことの方が多いし、無理しないでいいよ。
本格的にお願いする時に、空いてたらくればいいよぐらいに言ってたら。
なんか、今日、本当に来た。
実は、どんな場所か自分の目で確かめたかったというのもあるらしい。
花粉対策の眼鏡にマスク。
じょ・・・女性だけど、それはそれで怪しいんじゃねぇの?と思いつつ。
駅まで迎えに行き、候補地まで向かう。
お彼岸だから、おはぎを買っていく。
現場に着くと、堀川は、あちらこちらを見て回る。
地主のおじいさんは、やはり今日も広大な畑に出ていた。
一人で、何か植えている。
手を止めさせるのもどうかと思うし、勝手に手伝うのもはばかれるし。
少し間を置こうかと、畑を離れる。
一番下にある、石の彫刻さんだけが、カンカンと石ノミをふるってた。
折角だから、話してみる?と堀川に聞いてみると、案外、平気な顔をしている。
初めて会う人と話せるんだなぁ、こいつは。とちょっと感心する。
役者をやってるような人間は、とても社交的か、とても内向的か、どっちかだ。
堀川は社交的な方みたいだ。
石屋さん(自分の事をそう呼んでいらっしゃった)は、作品製作途中の一服タイムだった。
おいらも話したけど、堀川がどんどん質問してる。
硬くて四角いはずの石が、流線型のなめらかなオブジェになっていく途中段階になってる。
これ、どうやるんですか?
ええええ。すごいです!
この間、おいらが話した時とは違う質問をしている。
一つの作品に半年かかったりするという。
大きな石を、半年かけて、石ノミで削っていく。
出来上がる作品は、オブジェで、何かの役に立つようなものではない。
そういう事を、もう何十年と続けている芸術家と堀川の会話。
聞いていて、ハラハラしたけれど、新鮮だった。
堀川がそこで何を感じて、自分がどう演劇と向き合ってきていたかに繋がるかはわからないけれど。
石屋さんも、少し嬉しそうだった。
その後、畑を見ると、まだおじいさんは農作業を続けていた。
何を植えているかはわからないけれど、もう3列目に入っていた。
諦めて、そのままお宅に向かった。
奥様がいらっしゃるからだ。
尻尾を振って犬がなく玄関で呼び鈴を鳴らすと、小さいおばあちゃんが更に小さく腰を曲げて来てくださった。
映画で土地の一部を利用させていただきたい旨をもう一度伝える。
おじいさん、その後、なんか言ってました?ダメだって?と、優しい笑顔で答えてくれる。
舞台のDVDを渡そうとすると、そういう機械が何もないんですよと言う。
買ってきたおはぎをお彼岸ですから・・・と手渡すと、いんですよ・・・なんて言ってくれる。
なんだか立っているのがつらいんじゃないかって心配すると。
立って止まっているとね。腰が曲がっているからちょっと辛いんですけどね。
畑にだって出てるんですよ。今日も草むしりをしようかと思ってたんです。
買い物なんか、バスに乗らないで歩いて行っちゃうんですよ。待つより早いかなって・・・。
そんな風に笑顔で話してくれる。
どこにも拒絶感なんかない。
笑顔で話した後、おはぎを受け取ってくれる。
ふと思うんだ。
オレオレ詐欺とかさ。
なんというか、物騒な世の中じゃない。
しらない人間が現れたら構えちゃうよね。
すぐに玄関を締めちゃうことだって出来ると思うんだ。
あんなふうに笑顔でおいらだったら話せるのかな?
不審者って思われないといいなって思ってたのがばかみたいに、話を聞いてくれたんだ。
撮影日が決まるまでに。
確実に候補地が増えればいいなと思っている。
あそこは、本当に素晴らしいロケーションだから、ぜひ候補地に加えたいなぁ。
時々、顔を出して。
いつか、農作業も手伝えたらなって思う。
梅はもう散っていたよ。
シナリオは進み。
候補地は増え。
そしてスタッフミーティングが始まる。
あれから一か月だ。
堀川が帰り、おいらは実家に向かう。
親父に線香を手向ける。
手を合わせて報告をする。お願いはしない。
春になったけど。
少し肌寒い。