「候補1:時間の止まった場所」
約束していた今日。
再び、撮影候補地の1つ目に行ってきた。
管理していらっしゃる美術家さんが個展の準備で搬出にいらっしゃる予定があったからだ。
近くで待っていると、お子様といらっしゃった。
お子様と言っても、もう20代後半で、ここで自主映画を大学生時代に撮影してこともあると言う。
奥にある入り口から、中に入る。
そこは小部屋になっていて、ストーブやステレオ。椅子。
簡単な事務所のようになっていた。
外観からは予測も出来ないようなスペース。
1970年代に美大時代に借りたアトリエで、そこからここは時が止まっているという。
すでに先生は60代に入っていて、今も精力的に美術製作をしていらっしゃる。
特撮物の映画の美術にも参加していたという。
その事務所的なスペースで、しばし歓談する。
埃まみれの黒いレスポールが、ギターアンプ代わりの、カラオケマシンに刺さってる。
石油ストーブに火を入れて、インスタントコーヒーを頂戴する。
クリエイティブな空間。
まさにその一言で十分に説明が出来る。
その部屋も、自分たちで作ったという話を聞く。
奥には、もう動くかもわからないマッキントッシュがあった。
バカでかいスピーカーに、レコードプレイヤーまであった。
様々な話を聞いてから、作業場、倉庫を案内してもらう。
奥はもう殆ど倉庫として、モノ置き場になっている。
KAWAIのアップライトピアノ、なぜかバスドラムまである。
まだ何人もの美術家がここに通っていた頃に思いを馳せる。
ここにはきっと美術だけではなく、全ての芸術が集まっていたのだと思う。
トンカチを握る美術家、ペンキまみれの美術家。ピアノを弾くモノ、ギターを弾くモノ。
ステレオを直しているモノ。マッキントッシュをいじりたおすモノ。
記憶が風化して、倉庫化しているそのアトリエは、まるで青春の残滓とでも言える空気をまとっていた。
ここに室内セットを組むとなると、まずは多くの物を片付けなくてはいけない。
大変な作業になるかもしれない。
元に戻してくれるならいいですよと、言ってくださったけれど。
ここは、中々、難しいんじゃないですか?
そんな風にも言ってくださった。
トラックが到着すると、一緒に搬出を手伝う。
トラックに荷物を載せるのはいつもやっている作業だ。
様々なオブジェを積みながら、ここがパンパン宿だったら・・・
・・・と、想像を重ねていった。
カメラマンのお兄さんがやってくる。
先生の搬出作業を撮影しに来たのだという。
今もこのアトリエを中心に様々な人が集まり、交流が続いている。
二段下にある石工のスタジオにも足を運ぶ。
先日見に来た時にはいなかったのに、今日はいらっしゃったからだ。
秋であれば、しばらく発表会などが重なるから誰も来ないそうだ。
人のよさそうな、彫刻家さんと話をする。
カンカンと小気味よく石を石のみで叩いている。
たかだか20年。
おいらが、芝居をやっている時間だ。
ここの人たちはその倍も、ここで美術と向き合ってきた。
すごいねぇ。
本当にすごいねぇ。
美術監督の杉本さんや、プロデューサーとの打ち合わせ次第だけれど。
もし、ここでも撮影することになれば。
この40年、クリエイティブであり続けた空間の空気は、きっと大きな大きな力になる。
おいらの頭の中に、あっという間にセットが建っていく。
扉側に、いくつかの門が付いたり・・・倉庫内に、板の間が出来ていったり・・・
石工さんの彫刻スタジオで、京野に監禁されたり・・・
もし全てをここで完結できるのであれば、撮影時間をぐっと濃縮できる。
移動時間を計算しないまま、様々なシチュエーションを撮影できるからだ。
裏の無人集落にも、もう一度足を運ぶ。
今日は地主さんがいなかった。
到着した時は、梅の木に登っている元気な姿を見かけたのに・・・。
また、話をしに戻ってこようと心に決める。
恐らく同時進行で、別の候補も続けて探すべきだと思う。
ここが結果的に撮影場所にならないこともあるだろう。
だとしても。
今日、美術家さんたちと話した全てのことは、おいらの財産になった。